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浦和地方裁判所 昭和53年(ワ)230号 判決 1982年5月19日

原告 田口たか子

<ほか二名>

原告ら訴訟代理人弁護士 時友公孝

被告 共立鋳造株式会社

右代表者代表取締役 鈴木範男

右訴訟代理人弁護士 鈴木航児

被告 高沢産業株式会社

右代表者代表取締役 高沢克治

右訴訟代理人弁護士 宮下勇

被告 有限会社千葉鉄工

右代表者取締役 千葉七郎

右訴訟代理人弁護士 鈴木康洋

被告 長野ダイヤモンドリース株式会社

右代表者代表取締役 藤澤宗一郎

右訴訟代理人弁護士 宮澤増三郎

宮澤建治

主文

一  被告共立鋳造株式会社及び同有限会社千葉鉄工は、原告ら各自に対し連帯して、金一二二七万九八三五円及び内金一一六一万三一六九円に対する昭和五二年五月四日から完済までの年五分の金銭の支払をせよ。

二  原告らの被告共立鋳造株式会社及び同有限会社千葉鉄工に対するその余の請求並びにその余の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中、原告らと被告共立鋳造株式会社及び同有限会社千葉鉄工との間に生じた分は右被告らの負担とし、原告らとその余の被告らとの間に生じた分は原告らの負担とする。

四  第一項は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告ら

1  被告らは、原告ら各自に対し連帯して、金一四四一万六八三円及び内金一三七四万四〇一七円に対する昭和五二年五月四日から完済までの年五分の金銭の支払をせよ。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告ら(以下、被告ら各自を指す場合には「株式会社」又は「有限会社」を省略する。)

(被告高沢産業)

原告らの請求を棄却する。

(被告高沢産業を除くその余の被告ら)各自

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  原告らの請求原因

1  (事故の発生)

田口清は、新高鉄工有限会社に勤務する熔接工であったが、昭和五二年五月三日午前一一時四〇分頃、群馬県佐波郡東村大字小保方五六六番地の二被告共立鋳造の東工場において、同工場内に設置されたサンドタンク(重量七五トン。以下「本件サンドタンク」という。)が落下し、その下敷になって死亡した(以下この事故を「本件事故」という。)

2  (本件サンドタンクの製作・設置)

本件サンドタンクは、砂を満載したタンクを地上四、五メートルの高さの鉄骨足場にボルトで吊って、それから砂を取り出す装置であるが、被告共立鋳造の注文によって、同高沢産業がその製作・設置工事を請負い、新勝工業株式会社がこれを下請し、更に、被告千葉鉄工がこれを再下請して、昭和五一年一二月、同共立鋳造の前記工場内に完成させたものである。

3  (被告らの責任)

被告らは、それぞれ左記の理由によって本件事故による損害を賠償する義務がある。

(一) 被告千葉鉄工

被告千葉鉄工の代表者である千葉七郎は、本件サンドタンクの設置に際し、

(1) タンクの間にタンクを吊るための綱板等支柱を取り付けなかった。

(2) 設計時ボルトの数が一二八本であったところ八六本に減らした。

(3) ボルト締めの後熔接固定をしなかった。

との点において過失があり、そのため、ボルトが折れて本件サンドタンクが落下し、本件事故を発生させた。

したがって、同被告には、有限会社法三二条、商法二六一条三項、民法四四条一項に基づく責任がある。

(二) 被告高沢産業

被告高沢産業は、下請人新勝工業株式会社又は孫請人被告千葉鉄工に対する関係では注文者であるが、本件サンドタンク製作・設置の注文又は指図について、次のとおりの過失があった。

(1) 被告千葉鉄工が、本件サンドタンクを製作・設置する際、被告高沢産業の従業員小松正典は、現場に立ち会って指揮監督を行ない、また、新勝工業株式会社が完成後本件サンドタンクを被告高沢産業に引き渡した際、その検収(最終仕上りの状態を細かく検査した上で納入すること)が行なわれているが、右は注文者の注文あるいは指図に相当する。

(2) 被告高沢産業は右の指揮監督及び本件サンドタンクの引き渡しを受けた際、十分な検査あるいは指図をしなかった過失がある。

したがって、被告高沢産業には、民法七一六条但書に基づく責任がある。

(三) 被告共立鋳造

(1) 本件サンドタンクは、前記工場内の地面に大きな基礎を造り、その上に設置されているもので、土地の工作物に該当する。そして、被告共立鋳造は、昭和五一年一二月一一日以来本件サンドタンクの占有者であり、これを作動していたが、

(ア) 本件サンドタンクを設置するに際しては、前記(一)の(1)から(3)のとおりの瑕疵があり(設置の瑕疵)、

(イ) 設置二五日後に本件サンドタンク外側に液体が流れ出て、ボルトのゆるみを示めしていたのにこれを放置し、また、本件サンドタンクは重量の大きいタンクを振動させるもので、ボルトのゆるみ、金属疲労等についての定期検査は機械の性質から不可欠であるにもかかわらず、定期検査もせず振動の極めて大きい機械を毎日長時間使用してきた(保存の瑕疵)。

したがって、同被告には、民法七一七条一項前段に基づく責任がある。

(2) 仮に、同被告について本件サンドタンクの設置、保存に瑕疵がないとしても、同被告は、本件サンドタンクの所有者であるから、同法七一七条一項但書の責任を免れない。

(四) 被告長野ダイヤモンドリース

本件サンドタンクが土地の工作物であることは前記(三)(1)のとおりであり、被告長野ダイヤモンドリースは、本件サンドタンクの所有者である。

したがって、同被告には、民法七一七条一項但書に基づく責任がある。

4  (損害)

(一) 逸失利益 三〇七三万二〇五一円

田口清は、死亡時四六才であり、就労可能年数は二一年、新ホフマン係数は一四・一〇四であるので、これらに当時の平均給与月額二五万九四〇〇円を掛けると、今後の総収入は四三九〇万二九三一円である。

そして、同人は、妻と二人の幼い子をかえる世帯主であるので、生活費として三〇パーセントを控除すると、逸失利益は三〇七三万二〇五一円となる。

(二) 慰藉料 一〇〇〇万円

(三) 葬儀費用 五〇万円

(四) 弁護士費用 二〇〇万円

原告田口たか子は清の妻であり、原告田口敏子及び同田口照男はその子である。原告らは、各三分の一の割合によって、右(一)、(二)の損害賠償請求権を相続し、かつ 右(三)、(四)の費用を負担している。

5  (結論)

よって、原告らは各自、被告らに対し、一四四一万六八三円及び弁護士費用を除く一三七四万四〇一七円に対する本件事故の翌日である昭和五二年五月四日から完済までの民法所定の年五分の遅延損害金の連帯支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

(被告千葉鉄工)

1 請求原因1のうち、勤務関係は知らないが、その余の事実を認める。

2 同2の事実を認める。

3 同3(一)は争う。

4 同4は争う。

(被告高沢産業)

1 請求原因1、2の事実を認める。

2 同3(二)のうち、被告高沢産業が新勝工業株式会社又は被告千葉鉄工に対する関係で注文者であること、本件サンドタンク完成後、新勝工業株式会社からその引渡しを受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。

被告高沢産業は、本件サンドタンクを含む機械器具の集合体であるプラントの設置場所を定めるための配置図を新勝工業株式会社に交付したこと、完成後作動するのを確認し、引渡を受けたこと以外は、工事に関与していないし、また、被告千葉鉄工は勿論、新勝工業株式会社に対しても監督指図をしたことはない。

被告高沢産業は、本件サンドタンクをボルトで吊ることも、その他の方法を用いることも、全て請負人らの判断にまかせていた。

3 同4は争う。

(被告共立鋳造)

1 請求原因1のうち勤務関係は知らないが、その余の事実を認める。

2 同2の事実を認める。

3 同3(三)のうち、被告共立鋳造が原告主張の時期以来本件サンドタンクの占有者であり、これを作動させていたことは認めるが、その余は争う。本件事故の原因は、同被告に係わりのない本件サンドタンクの設置の瑕疵によるものである。

4 同4は争う。

(被告長野ダイヤモンドリース)

1 請求原因1、2の事実は知らない。

2 同3(四)のうち、被告長野ダイヤモンドリースが本件サンドタンクの所有者であることは認めるが、その余は争う。

3 同4は争う。

三  被告らの主張

1  (被告共立鋳造)

被告共立鋳造は、本件サンドタンクについて、次のとおり、損害発生を防止するのに必要な注意をした。

(一) 被告共立鋳造は、昭和五一年九月頃に、鋳造機・砂処理プラントの必要を生じ、被告長野ダイヤモンドリースより賃借することとし、その製作を被告高沢産業に発注した。本件サンドタンクは、右砂処理プラントの一部を構成する。

被告高沢産業は、その製作を更に新勝工業株式会社に下請させ、同社は、更に被告千葉鉄工に再下請させ、被告千葉鉄工が被告共立鋳造の工場内に完成させた。

そして、本件サンドタンクを含む砂処理プラントを被告高沢産業が被告長野ダイヤモンドリースに売却し、同社より被告共立鋳造が賃借して占有者になった。

(二) 右砂処理プラントの製作・設置にあたっては、被告共立鋳造は、専門家でもないので、それまで取引のあった被告高沢産業を信頼して発注した。そして、現実に施工する者については、同被告の下請会社である新勝工業株式会社の飯島専務取締役より、同社と永年取引関係があり本件のような工事にも十分な経験がある被告千葉鉄工にさせるとの説明を受けた。更に、昭和五一年一〇月二九日から三〇日にかけて、被告共立鋳造の常務取締役鈴木鉄男は、被告高沢産業の水尾部長及び新勝工業株式会社の飯島専務取締役とともに岩手県まで出向いて被告千葉鉄工の代表者に会い、その施工したという同種設備を見せられて、その経験を確認したうえ、被告共立鋳造の工場内における設置工事中は、被告高沢産業及び新勝工業株式会社の担当者が立会監督をしているのを確認し、同年一二月初には、同社及び被告共立鋳造立会いのうえ、試運転を行ない、何ら支障のないことを確認して引渡を受け、占有者となった。

2  (被告長野ダイヤモンドリース)

(一) 本件サンドタンクは、被告共立鋳造の買受代金調達の方策として、被告長野ダイヤモンドリースが予め被告共立鋳造と被告高沢産業との間に取り決められた仕様構造、価格に従って、一旦本件サンドタンクを含む鋳砂処理機械設備を被告高沢産業から買取り、リース契約に従い、リース料を徴集して被告共立鋳造に使用収益させていた。

(二) ところで、いわゆるリース契約は、ユーザーが機械設備等を必要とする場合に、その購入資金をユーザーに貸付ける代わりに、リース会社がユーザーの選定した物件をその指定数量、銘柄、価格に従って発売元に発注し、買受けた上でこれをユーザに貸付ける制度であり、リース契約の目的は、金融にあって金銭消費貸借の実質を有するものであり、リース契約においては、リース業者のリース物件に対する所有権は形式的なものである。

(三) 民法七一七条は、土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があったことにより他人に損害を与えた場合、所有者に賠償義務を負わせているが、この責任は現実に危険物を自己の支配下に置いている場合に問われるべきであって、形式的な所有者については責任を問うことはできない。

したがって、リース物件たる本件サンドタンクの所有者に過ぎない被告長野ダイヤモンドリースは所有者として民法七一七条の賠償責任を負わない。

第三証拠関係《省略》

理由

一  (事故の発生)

田口清が、昭和五二年五月三日午前一一時四〇分頃、被告共立鋳造の東工場内に設置された本件サンドタンクの落下により、その下敷になって死亡したことは、被告長野ダイヤモンドリースを除く当事者間に争いがなく、同被告との関係において、右事実は、《証拠省略》によって明らかである。

二  (本件サンドタンクの製作・設置)

請求原因第二項の事実は、被告長野ダイヤモンドリースを除く当事者間に争いがなく、同被告との関係においては、弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。

三  (被告らの責任)

1  本件サンドタンクの構造等

(一)  《証拠省略》を総合すると、次の各事実を認定することができる。《証拠判断省略》

(1) 本件サンドタンクは、鋳物製品を製作するための砂合成総合装置と称するプラント(以下単に「砂合成総合装置」という。)の一部であって、一旦使用した鋳砂(フランタリーシリカサンド)を集積し、必要に応じて再びこれを取り出す装置であるが、厚さ〇・四七センチメートルの綱製の、最上部で東西側三メートル、南北側五メートル、最下部で東西側〇・四メートル、南北側四・五メートル、深さ一・九二五メートル、最大容量三〇トンの擂鉢型タンクを東西に二槽並列し、右二槽のタンクを、東西側六メートル、南北側五メートルの間隔をもって被告共立鋳造の東工場内に据付固定され直立する地上高五・五メートルの支柱綱の地上高四・三メートルの部分に横行固定された取付綱に吊り下げ固定した構造を有し、鋳砂を最大容量集積した場合には、自重とあわせ六三トンの重量を有すること、

(2) 右二槽のタンクは、中央で熔接止めされていたが、取付綱には取付鋼の外側から横に直径約一・二センチメートルの並目ボルト八六本を刺し、右ボルトをタシク鋼の内側でワッシャー及びナットで締める方法によって固定され、右八六本のボルトのみによって右二槽のタンクの荷重を支持し、取付鋼と右二槽のタンクとの間は熔接されてはいなかったこと、

(3) 右二槽のタンクの固定方法として、当初は、二槽のタンクの間にタンクを支持するための鋼板を設置して、その鋼板とタンクとをボルトで止めるように設計されており、そのためにボルト数は一二八本とされていたが、鋼板を取り付けると本件サンドタンクを設置するのに施工上の困難を生じるので、被告千葉鉄工の代表者であり、本件サンドタンクを実際に設置した千葉七郎が、右の鋼板を設置しないことととして二槽のタンクを直接中央で熔接し、同時に二槽のタンクと中央の鋼板とを止めるボルトを省き、ボルト数を八六本に減らして設置したこと、

(4) 被告千葉鉄工は、本件サンドタンクと同様の装置を幾つか製作、設置したことがあったが、他の装置はすべてタンクと取付鋼との間を熔接し、かつ、タンクの上縁をL型に折曲げて取付鋼に重ね、ボルトを縦に刺して固定するとともにタンクと取付鋼とを熔接する方法によっていたこと、

(5) 本件サンドタンクを、一二八本のボルトを使用して吊り下げた場合には、タンクの最大容量時においてもボルトのかかる応力はボルトの許容応力の範囲内にあるが、八六本のボルトによるときは、タンクの最大容量時には、ボルトにかかる応力がボルトの許容応力を上廻り、本件サンドタンクの荷重を支持できないこと(もっとも、本件事故時における本件サンドタンクの総重量は約三九・五トンであり、本件サンドタンクを設置して以来本件事故に至るまで右総重量はおおむね四〇トン前後であって、右程度の重量であれば八六本のボルトであってもボルトの許容応力の範囲内にある。)

(6) 砂合成総合装置は、昭和五一年一二月一一日に完成し、同日から運転を開始したが、被告共立鋳造の従業員が砂合成総合装置の取扱いに不慣れであったために、冷却した鋳砂を本件サンドタンク内に集積しなければならないのにもかかわらず、冷却されていない鋳砂をそのまま集積したことから、本件サンドタンク内に水蒸気が発生し、その後の外気温の低下により水蒸気が液化し、その一部が、前記取付鋼のうち東側取付鋼とタンクとの接着面を流れ、ボルト孔から外側に流下したことがあること、

(7) 前記の取付鋼のうち西側取付鋼を除く取付鋼は、いずれも落下を免れていたが、東側取付鋼の北寄りのボルト孔の一部には、ボルトによる接圧が認められず、かつ、メッキ、酸化のはげた新しい擦過痕が他のボルト孔に比して極めて微量にしか認められないものが存するのにもかかわらず、南側及び北側取付鋼にはそのようなボルト孔が認められないこと、

(8) 本件サンドタンク上には当初鋳砂をふるう「ふるい」の役割をはたすユーラススクリーンと称する装置が設置されていたが、砂合成総合装置の運転開始に伴って、実際に作動させてみたところ、震動が激し過ぎるために二日間ほど作動させただけですぐに取り外されたこと及び右ユーラススクリーンを作動させていた間は、ユーラススクリーンの震動の影響により本件サンドタンクも相当震動していたこと、

(二)  以上の事実を前提として本件サンドタンクが落下した原因を検討すると、本件サンドタンクの東側取付鋼とタンクとの接着面を水が流れたことは、接着しているべき取付鋼とタンクとの間に間隙が生じていたことを意味し、東側取付鋼の北寄りのボルト孔の一部にボルトによる接圧が認められず、かつ、擦過痕が極めて微量にしか認められないこととあわせ考えると、当初からボルトのナットによる締め付けが不足していたものか、その後のユーラススクリーンの震動の影響でゆるんだかは明らかではないが、本件事故時において、前記八六本のボルトのうち何本かのボルトがゆるんでいたことは明らかであり、前記のとおり本件サンドタンクは、本件事故時に至るまで八六本のボルトの許容応力の範囲内の総重量にとどまっていたと推認されることからして、本件サンドタンク落下の原因は、ボルトのゆるみにより耐力以下の応力下でボルトに亀裂が入り、亀裂が徐々に進行して破断に至ったこと、すなわち、ボルトの疲労破壊によるものと認めるのが相当である。

2  被告千葉鉄工

(一)  被告千葉鉄工の代表者であり、本件サンドタンクを実際に設置した千葉七郎が前記二槽のタンクの間のタンクを支持するための鋼板を設置しないこととして、ボルト数を八六本に減らしたこと、被告千葉鉄工が、本件サンドタンクと同様の装置を製作、設置した際にはタンクと取付鋼との間を熔接し、かつ、タンクの上縁をL型に折曲げて取付鋼に重ね、ボルトを縦に刺して固定する方法によっていたにもかかわらず、本件サンドタンクは、横に八六本のボルトを通して固定したのみで、熔接はしていないことは、いずれも前記認定のとおりである。

ところで、本件サンドタンクのような重量物を吊り下げる場合には、その設置者において当該重量物を落下しないように十分な方法を講ずべき注意義務を有することはいうまでもなく、本件サンドタンクを取付鋼に吊り下げ固定するにあたっても、千葉七郎は、前記のとおり、最大重量六三トンに達する本件サンドタンクの荷重を支えるのに八六本のボルトをもってしては不十分なのであるから、当初の設計どおり前記二槽の擂鉢状タンクの間にタンクを支持するための鋼板を設置して、ボルト数を一二八本にするのみならず、《証拠省略》により、そもそも並目ボルトは直接ボルト自体に高荷重を加えるには不向きであることが認められることを考慮すると、右擂鉢状タンクを取付鋼に熔接するなり、本件サンドタンクを吊り下げる方法ではなく、下から支えを設置する方法をとるなりの相当の方法をとるべきであった。

そうすると、千葉七郎は、本件サンドタンクを設置するにあたって右の注意義務に違反していたということができる。

(二)  そして、右説示のとおり、前記擂鉢状タンクを取付鋼に熔接するなり、本件サンドタンクに下から支えを設置するなりの方法を講じていれば、本件事故の発生を回避することができたことは明らかであるから、前記ボルトのゆるみの原因がボルトの締め付け不足に存するか、否かにかかわらず、右の注意義務違反と本件事故との間には相当因果関係がある。

(三)  したがって、被告千葉鉄工は、その代表者である千葉七郎がその職務を行なうについて本件事故を発生させたものであるから、有限会社法三二条、商法二六一条三項、民法四四条一項によって、本件事故についての損害賠償責任がある。

3  被告高沢産業

(一)  被告高沢産業が被告共立鋳造から本件サンドタンクの設置工事を請負い、これを新勝工業株式会社に下請けさせ、新勝工業株式会社はこれを被告千葉鉄工にいわゆる孫請けさせ、したがって、後二会社に対する関係で注文者であることは、原告と被告高沢産業との間に争いがない。

(二)  《証拠省略》によると、被告千葉鉄工が本件サンドタンクを被告共立鋳造の東工場内に設置するに際し、被告高沢産業の従業員である小松正典が設置現場に立ち会っていた事実はこれを認めることができるが、本件全証拠によっても、小松正典や他の被告高沢産業の従業員が本件サンドタンクの設置にあたっていた被告千葉鉄工の代表者である千葉七郎や同人の指揮下にあたった被告千葉鉄工の従業員あるいは直接の下請け先である新勝工業株式会社に対して、本件サンドタンクの設置工事について指揮監督をするべき立場にあること、ないし実際に指揮・監督をしていた事実を認めるには足りず、かえって《証拠省略》によると、小松正富は、砂合成総合装置設置工事の進行状態を確認する目的で本件サンドタンクの設置工事に立会っていたにすぎないことが窺われる。

また、本件サンドタンクの完成後、被告高沢産業が新勝工業株式会社から引き渡しを受けたことは、原告と被告高沢産業との間に争いがないが、本件全証拠をもってしても、右の引渡しの際に被告高沢産業から新勝工業株式会社に対して何らかの指図あるいは注文がされた事実を認めることはできないし、右引渡しが、本件サンドタンクを含む前記砂合成総合装置が完成し、作動するか否かを被告高沢産業において確認の上されたとしても、これを目して被告高沢産業の注文あるいは指図といえないことは勿論である。

(三)  そうすると、被告高沢産業が、本件サンドタンクの設置について、何らかの注文あるいは指図をした事実を認めることはできない。したがって、民法七一六条但書に基づく原告らの被告高沢産業に対する請求はその余の判断をするまでもなく理由がない。

4  被告共立鋳造

(一)  本件サンドタンクが、二槽の擂鉢型タンクを被告共立鋳造の東工場内に据付固定された支柱鋼に横行固定された取付鋼に吊り下げ固定した構造を有していることは、前記のとおりであり、工場内に存する機械設備であっても当該の機械設備が工場内に据付固定されている場合には、これを土地の工作物と解するのが相当であるから、本件サンドタンクは土地の工作物に該当し、本件サンドタンクに瑕疵があることは前認定に徴し明らかである。

(二)  次に、被告共立鋳造が昭和五一年一二月以来本件サンドタンクの占有者であり、これを作動していたことは、原告と被告共立鋳造との間に争いがない。そして、前記1において判断したとおり、本件事故当時本件サンドタンクを固定すべきボルトの何本かがゆるんでおり、そのためボルトの亀裂が進行して落下に至ったのであるから、本件事故前約五か月間本件サンドタンクを占有し作動して来た被告共立鋳造は、事故の発生を防止しうるだけの注意をしたことを立証しないかぎり民法七一七条一項前段に定める占有者としての責任を免れることができない。

ところで、被告共立鋳造は、免責事由として二、三の事実を主張するが、仮にその主張するとおりの事実があったとしても、現実に事故が発生していることからみても、それだけでは、事故の発生を防止しうるに必要な注意をしたとはいえないし、他に本件全証拠によっても、被告共立鋳造の責任を免除するに足りる事由を認めることはできない。

(付言すると、本件サンドタンクの製作・設置自体に存在する瑕疵について、その設置の時点において専門知識を有しない被告共立鋳造に、瑕疵の認識及び損害発生の予見を期待することは困難であるとしても、製作・設置の当初から存在した瑕疵が本件サンドタンクを作動することによりその危険性を増大させていったことは、先の認定ないし判断から明らかであるから、唯一の作動者である被告共立鋳造において、専門家に依頼して適時に本件サンドタンクを点検する等の方法を取ったならば、前記瑕疵の存在を知り、これを補修して事故の発生を防止することが十分できたはずである。そして、被告共立鋳造において、そのような方法を取りあるいは取ろうとしていた形跡はないから、むしろ被告共立鋳造は、事故の発生を防止しうるだけの注意をしていないというべきであろう。)

(三)  したがって、被告共立鋳造は、民法七一七条一項前段によって、本件事故による損害を賠償する責任がある。

5  被告長野ダイヤモンドリース

本件サンドタンクが土地の工作物であることは前説示のとおりであり、被告長野ダイヤモンドリースが本件サンドタンクの所有者であることは、原告と被告長野ダイヤモンドリースとの間に争いがない。

ところで、民法七一七条一項但書は、土地の工作物の占有者が損害の発生を防止するに必要な注意をしたときに、所有者に損害の賠償責任を認めている。そして、被告共立鋳造が本件サンドタンクの占有者であったことは原告らの自認するところであり、かつ、被告共立鋳造において損害の発生を防止するに必要な注意をしたということができないことは、4(二)において説示のとおりである。

したがって、原告らの被告長野ダイヤモンドリースに対する請求は、右法条の要件を欠くことになるから、理由がない。

四  (損害)

1  逸失利益

《証拠省略》によると、田口清が死亡時四六歳であった事実を認めることができ、《証拠省略》によると、田口清は、本件事故当時新高鉄工有限会社に熔接工として勤務し、昭和五一年一〇月には二一万七四〇〇円、同年一一月には一八万六三〇〇円、同年一二月には二三万六五〇〇円、同五二年一月には一八万三九二五円、同年二月には二二万七二五〇円、同年四月には一八万一二八二円の収入をそれぞれ得ていた事実を認めることができる。

そうすると、田口清は、本件事故がなければ、満六七歳に至るまでの二一年間にわたり就労することが可能であり、その間少なくとも右収入金額の平均である月額二〇万五四四三円と同一の収入を得ることができたから、新ホフマン方式によって中間利息を控除すると、田口清の得べかりし総収入の現価は三四四七万八一六円となる。

(計算式)

205,443×12×14.104(新ホフマン係数)=34,770,816

そして、《証拠省略》により田口清が妻と二人の子をかかえる世帯主であることが認められるから、生活費としては右総収入の三〇パーセントを控除するのが相当である。

よって、田口清の逸失利益は、二四三三万九五一一円となる。

2  慰藉料

田口清の慰藉料については、前記のとおり同人が妻と二人の子をかかえる世帯主であること等諸般の事情を考慮してこれを一〇〇〇万円と認めるのが相当である。

3  相続

原告らが田口清の被告千葉鉄工及び被告共立鋳造に対する右損害の賠償請求権を各三分の一宛(原告ら各自一一四四万六五〇三円(一円未満切捨)宛)相続した事実は、《証拠省略》によりこれを認める。

4  原告らの損害

(一)  田口清の葬儀費用として原告らの被った損害は五〇万円と認めるのが相当である。

(二)  弁護士費用

本件訴訟において原告らが訴訟代理人を選任していたことは記録上明らかであり、本件事案の内容、立証の難易等を総合考慮すると、原告らの主張する弁護士費用額二〇〇万円は相当であり、本件事故との間に相当因果関係があるというべきである。

(三)  したがって、原告ら各自の分は

(1)につき      一六万六六六六円(一円未満切捨)

(2)につき      六六万六六六六円(一円未満切捨)

合計       八三万三三三二円となる。

五  結論

以上の次第であるから、原告らの請求は、被告千葉鉄工、同共立鋳造に対し、各自一二二七万九八三五円及びうち弁護士費用を除く一一六一万三一六九円に対する本件事故ののちである昭和五二年五月四日から支払い済みまでの民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、右被告らに対するその余の請求並びに被告高沢産業及び同長野ダイヤモンドリースに対する請求はいずれも失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条但書、九三条一項、仮執行の宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 一宮なほみ 綿引穣 裁判長裁判官橋本攻は退官のため署名押印することができない。裁判官 一宮なほみ)

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